これまで広告主は消費者の購買意思決定をさせるために様々な手段が用いてきました。
4マス、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌をはじめとし、web広告、webメディアなどを通じて1対マス構造の中で一方的に消費者に情報を与えることで購買行動を促進していました。
しかし、時代は移り変わり今時の若者の多くはこれらの媒体を通じてではなく、SNS上で相互に情報交換を行い購買を決定することが多くなってきています。中でもInstagramやYouTubeが影響力を持ち、多くの若者がこれらの媒体に熱中しています。
「ハッシュタグ検索」などというのは一時期マーケティング担当者の間ではホットワードになり、全投稿のハッシュタグを見直す企業もたくさん出てきました。
[aside type=”normal”]ハッシュタグ検索…SNSで#ハッシュタグの付いているワードを検索する手法。Google検索ではアルゴリズムで意図しない検索結果が出ることも多いが、ハッシュタグ検索であれば指定ワードでの検索になるため欲しい検索結果にたどり着きやすい。[/aside]一方的な広告コミュニケーションが双方向コミュニケーションへ変貌についての過程と、これからの広告ビジネスについてより深く知りたい方は広告の本質ってなんだっけ?これからの広告の在るべき形についてにて詳述しているのでご参考ください。
この記事ではなぜ、これほどまでにYoutubeやInstagramが若者に影響を持つようになったのかということについて、広告業界出身、現メディア・アプリ開発エンジニアの目線から考察していきます。
テクノロジーの発達
InstagramやYoutubeといったSNSがここまで広く浸透したのは、ハードウェアやソフトウェアのテクノロジー発達の恩恵といっても差し支えないでしょう。
SNSの多くはアプリケーション化されて、スマートフォンに格納されており、いつでも便利に指ひとつで取り出すことが可能です。スマートフォンというハードウェアとアプリケーションというソフトウェアのコンボが絶大な効用を生み出したわけですね。
スマートフォンが登場したのも、アプリケーションがこれほど便利になったのも全てはテクノロジーの発達のおかげなのです。それぞれ詳細にみていきましょう。
スマートフォンという媒体の普及
2007年、Apple社が世界で初めてiPhoneと呼ばれる次世代型端末スマートフォンをリリースしました。
それまでは折りたたみ式、ないしはスライド式のガラケーと呼ばれる端末が主流で、インターネットを楽しむ端末というよりも、メールや電話を友人と行うための機械という役割でした。
そのため、インターネットをするならPC、電話やメールはガラケーという住み分けができていたのです。
しかし、スマートフォンはその常識を根底から覆し、電話やメールの機能そのままにいつでもどこでもインターネットを大きな画面ディスプレイで、指ひとつで楽しむことができるという体験をユーザーに提供しました。
リリース当初は不具合の多さやその高額さからそれほど話題にはならなかったスマートフォンですが、Apple社のスマートな広告によるブランドイメージの創造と、アーリーアダプター層の”iphoneを持っているイケてる感”が相まって徐々にマジョリティー層にもスマートフォンは爆発的に浸透していきました。
iPhoneに続きGoogleのソフトウェアが入っているAndroidというスマートフォン端末も同時期に波に乗りそのシェアを伸ばしていきました。
結果的に、スマートフォンの生産量も伸びていくことで大量生産の体制が整い規模の経済性が働き、加えて様々なスマートフォンブランドの登場により寡占市場が形成されにくくなり価格競争が起きたことで、スマートフォンは比較的安価になっていきました。
これらの事象により現在では日本国内で約65%以上の人がスマートフォンを保有しており、中でも30歳未満のユーザーのスマートフォン保有率は優に90%を超えています。
引用:総務省HP スマートフォンの登場と普及:ビッグデータの時代へ
スマートフォンの普及は誰でも、いつでも、どこでもインターネットのアクセスを可能にしました。
階層的制約(誰でも)、時間的制約(いつでも)、物理的制約(どこでも)がより解き放たれたことで人々のライフスタイルはスマートフォンを中心に大きく変貌しました。
[aside type=”normal”]階層的制約…その昔は特権階級しかアクセスできない権利や、高額すぎて手の届かないという制約がありました。現代では考えられないことですが、階層社会の時代には制約だらけだったんですね。[/aside]2007年からたった10年で、電車や公共機関では9割の人がスマートフォンで何かをしています。今や我々の生活にとってスマートフォンは欠かせないものです。
スマートフォンに最適化されたアプリの登場
これまでのwebサービスはインターネットブラウザ上で構築されるものがほとんどでした。
代表的なwebサービスについてまとめた記事は世の中の膨大な数のWEBサービスはシンプルに3つに分類できると思うをご一読ください。世の中にあるwebサービスを3つに分類してみた記事です。
今でこそアプリケーションは膨大に増えて、インストールすればすぐに使えるという状態ですが、スマートフォン登場以前はほとんどアプリケーションは存在せず、その開発費も高額でした。
しかし、スマートフォン端末はアプリケーションのインストールを前提に作られた端末であり、アプリケーションを扱いやすい環境が整うことで各企業がこぞって開発に注力しました。
また、一番大きかったのはアプリケーション開発のためのソースコードが無料でオープンに公開されたり、アプリケーション開発の言語が次々に生まれ、さらにはアプリケーション用のパッケージまでできたことが開発難易度の敷居を下げたので一気にアプリケーションの普及を高めました。
アプリとの相性が抜群に良いハードウェア端末と、アプリ開発のためのツールや情報が集積することでアプリ開発は熱を帯びたのです。
近年ではwebサービスから始めるのではなく、アプリからサービスを構築するという企業も増えてきました。
スマートフォンやアプリケーションなどのテクノロジーの発達により、SNSがより広く使われるようになるための土壌が整備されたのです。
時代環境の変化
テクノロジーの発達により人々のライフスタイルが大きく変貌してきたという話は上述の通りですが、それに伴って私たちを取り巻く時代環境も大きく変化してきました。
核家族化問題、少子高齢化問題、情報爆発等それぞれの問題が複雑に絡み合うことでSNS発展の土壌を社会が育んできました。
なぜ若者がYoutubeやInstagramに熱狂するのかという問いに対する答えはここに起因すると考えています。
若者特有の「繋がっている感覚」
現代の若者たちはインターネットやSNSを介してお互いに非常にか細い糸繋がっています。
ちょっと強く引っ張ったり、乱雑に扱うとすぐにぷつんと途切れるようなそんな糸で繋がっているような感覚が近いでしょうか。
昔のように移動距離も小さく限られたコミュニティで生活していた時代は近所のつながりも深く、「深く狭い」関係が強かったように感じます。多少嫌なことがあっても付き合う人々を容易に選択できず、コミュニティが限定的なため逃れることができなかったのです。
しかし、都心部で核家族化が進むことで家族はそれぞれ離れ離れに過ごすことで一族ぐるみでの交流も滅多になくなり人々は孤立し始めました。親が祖父母の実家から独立して過ごすことを選択すればもちろんその子供も、故郷特有の地域ぐるみでの交流からは無縁となります。
そのため若者の多くは誰かと繋がっていたいという欲求がより強まり、現代ではSNSを介して知り合い程度の人や場合によっては見知らぬ人と繋がることが多くなったのです。
つまり、これまでの「深く狭い」関係ではなく、「浅く広い」関係が主流になってきたようなのです。
少し話は逸れますが、その状況を象徴するかのような若者言葉に興味深いものがあります。それは「友達を切る」という言葉です。
まるで裁縫に使う細い糸のようなもので繋がっている友人関係を鋭利な刃物でいとも簡単に「ぷつんと」切るようなニュアンスです。
一昔前であれば「絶好」や「友達をやめる」「口をきかない」といったようなフレーズで交友関係の断絶を表現していましたが、現代の感覚ではやはり人のつながりとは浅く広く、「か細い糸のようなニュアンス」で捉えられているようなのです。
これはインターネットやSNS上で繋がりなどリアルを介さない、あるいは介すけれどもそれほど深くはない交友関係が増えてきていることが大きな要因だと考えられます。
ドラえもんのアニメにもありましたが、一昔前はのび太くんはいじめっ子ジャイアンのことがいくら嫌いでも簡単に「切る」ことはできません。のび太くんにとってのリアルはオフラインであり、学校や空き地こそが彼の居場所なのです。オンラインで友達を作ることは容易ではなかったのです。
簡単に「友達を切る」一方で、その繋がりが減ると非常に不安定な精神状態になるため、より友達との繋がり「フォロー/フォロワー数」「オンラインでの友達数」を大事にします。
大人からすればあまり理解しがたい感覚ですが、若者にとってSNSこそが友達とのコミュニケーションを行うための大切な場所であり、その繋がりは心の安定に繋がるのです。
「繋がっている感覚」により生まれる信用
若者がSNSで浅く広く繋がっていることは説明してきましたが、SNSには特徴的な機能が存在します。それがInstagramの「いいね!」機能やYoutubeの「高評価/低評価」機能です。
現代の若者にとってSNSの「いいね」機能や「高評価」機能は自己承認を満たすのに最高のツールとなります。受験勉強で親に叱られ、学校の生活の気疲れでフラストレーションが溜ま理、将来への不安が渦巻く中でSNSにおしゃれな画像やセンスのいい投稿をすると「いいね」や「高評価」を獲得できます。
普段褒められることがなくてもSNSの世界では「いいね」や「高評価」の数に応じて自分を認めてもらえるような気分になれるのです。その中で、芸能人やインフルエンサーと呼ばれるフォロワーが芸能人並みにいて影響力を持つ人などは膨大な数のいいねを集めるので、若者にとってはとても憧れになります。Youtuberと呼ばれる職種もまさにそうで、視聴数や高評価の数を膨大に集めることできる人は若者にとって憧れなのです。
かつてはテレビや雑誌が影響力を持ちましたが、若者の繋がりコミュニティの主流は今やSNS上に存在します。そしてそのSNS上でも自分と年齢が比較的近く共感を得られるような芸能人やインフルエンサーは若者の羨望を集めるとともに信用を得ることに成功しています。
英語では「buy goods」物を買うという表現がありますが、文字通り訳すとbuyは「〜を買う」、goodsは「モノ」という意味なので、モノを買うという意味になります。
しかし、現代の若者にとってこのgoodsは「たくさんの良い」つまり、SNSの機能の「いいね!」「高評価」の多さであるためいいね!が多い物ほど良いという評価を下すのです。
つまり「buy goods」は「物」を買う、であり「いいね」を買うという行為でもあると言えます。
「いいね」の数が多いほど、「高評価」の数が多いほど若者にとっての信用は積み上がり、その結果として購買行動に至ることが多くなるのだと考えられます。
圧倒的に行動コストが低い
昔は何をするにも手間がかかりました。つまり、行動コストが非常に高くついていたのです。
物を買うためには事前に複数の店を調べてわざわざ店に行って物を比較して検討して、また別の店に行って比較して検討してという行為を繰り返し非常に面倒臭かったのです。
Googleで情報を容易に得られるようになった後も、文字を入れて検索すると膨大な数の検索結果が出てきてどれもこれも広告まみれ。どれが正しい情報なのかもよくわからないカオスなことになっており、選定のために行動コストが発生しました。
現代の若者にとっては全て「面倒臭い」のです。手を差し出せば水の出る洗面台の水道、自動で流れるトイレ、エスカレーターなど何もかも自動で動く、自動で自分を欲しいもののところまで運んでくれるのが楽で良いのです。
すなわち、行動コストが圧倒的に低いものが若者に刺さりやすい傾向にあります。
SNSは片手を動かして指をスッと動かすだけで立ち上がります。お気に入りの芸能人やインフルエンサーは、流行りの若者言葉で面白おかしくコンテンツを届けてくれます。
加えて、小難しい論理ガチガチの広告ではなく「これが超すげーの!!何がすげーって?えっとね、とにかく便利なの!」のような若者が「便利そう!欲しいなあ」と思えるようなフランクさでインフルエンサーは語りかけてきます。
その中で彼らは広告や宣伝を行いますが、若者特有の繋がりのなかですでに信用を得ているため、若者は彼らにオススメされると買う傾向にあります。
Youtubeを見ていると若者言葉で非常に簡潔に商品の紹介をしており、意外にもかなりマーケティング戦略がしっかりなされているものが多く見受けられました。本当にしっかり作り込まれているんだなと感銘を受けました。
SNSは行動コスト(検討比較などの情報選定コスト、実際に店舗に行くコストなど)を極端にカットしてくれる上、若者の信用を獲得した売り手(インフルエンサーなど)が溢れているため購買促進のチャンスに溢れているのでしょう。
自分で考えずにオススメしてもらうというのは非常に楽なのです。
最後にまとめと一言
なぜ若者がInstagramやYouTubeで購買の意思決定をするのか、ということについて考察を与えてきましたが大きく分けて3つの要因が若者のSNSでの購買を後押ししているのだと私は考えます。
1つ目は、テクノロジーの発達によるスマートフォンデバイスの普及とアプリ開発難易度の低下がSNS発展の土壌を産んだこと。
2つ目は、時代環境の変化により若者のメインコミュニティがSNS上で形成され、その中でも若者の憧れとなるインフルエンサーや芸能人のレコメンドが信用を帯びるようになったこと。
3つ目は、SNSを活用すれば購買に至るまでの様々な行動コストを削減できて、効率的にいい物にたどり着けるということ。
上記3つが大きな主要因だと考えられます。
私自身、若者という括りに入ってもいいのか微妙な年齢ですが、若者の購買行動についてはかなり理解は示せる方だと思います。(多分、そうでありたい。いや、そうだ)
というのも、Googleやyahooを開き、どのコンテンツを見ても興味のない広告が飛び出てきて、ポップアップブロックの解除やらcookieの使用許可やら、挙げ句の果てには画面全面を覆う広告まで登場する始末です。
めちゃくちゃ見たいコンテンツがあるのに、いきなり邪魔されたら興味を削がれるのは至極当然のことです。
確かに私もメディアに携わる身なので「広告収益が大事なんだ」とメディア側として主張したくなるのは痛いほどわかるのですが、若者からすれば「そんなの知ったことか」ということなんですね。
ユーザーが見てくれなくなればそもそも広告マネタイズもクソもへったくれもありませんからね、、
素早く、面倒臭くなく、旬な情報を信頼のできる同世代の人から獲得できる媒体に若者が集まるのは必然の動きなのかもしれません。
なんでSNSで若者がこんなに物を買うんだろうとふと疑問に思ったので考察して見ましたが、かなりの長文になってしまったのでここまでにしたいと思います。
ご意見等あれば遠慮なくコメントくださいませ。